午前0時の飛行機雲
「ふぅ…」
本日の授業も無事に終了し、一息つく。
今日でAutoCADの授業は最後だった。
最後の課題で制御盤の図面を書いた。
以前の職場で触れたことがあるとはいえ、まだまだ知らないコマンドや、やり方があることを知った。
そして今回も、隣の席のN山さんにAutoCADの使えるコマンドなど本当に色々教えて貰った。
「この人、ホンマにすごいな…」
といつも思う。
教え方も、考え方もこの人の様になりたい。
心の底からそう思える人に出会えるなんて、なかなかない。
だからこそ、今いっぱい見て聞いて学んでいかないと。
教室から退出し、いつものように学校を出る。
「ってか、今日めちゃ疲れたな~」
駅に向かいながら、独り言をつぶやいてしまう。
それもそのはず。
昨日は大学の友人達との久々の飲み会だった。
10年ぶりだった。
超絶にぶりだ。
飲み会なんて、何か月もしてなかった。
彼女と別れてからは、行く気も起きなかった。
きっかけを作ってくれたのはその中の一人の友達だった。
八月下旬くらいだっただろうか…
夜中、家の中でゆっくりしていたら、ラインが一通入った。
「9月ぐらいに、みんなで飲もうと思うんやけど、どう?」
そんな感じのラインだった。
その時は失恋からまだ立ち直れておらず、とても飲み会なんて行ける状態ではなかったので、ラインを貰ったとき、断ろうかなと思った。
こんな状態じゃ心底楽しめないかもしれない。
1人暗い雰囲気を漂わせて空気をブチ壊してしまうかもしれない。
そんなネガティブな感情が瞬く間に広がっていく。
「そうなってしまったら申し訳ないなぁ…」
スマホを手に取り、断りのラインを入れようとしたとき、手が止まる。
「お前はどうしたいんだよ。」
もう一人の自分が言う。
「お前は行きたいのか?行きたくないのか?」
「どっちなんや?」
10年ぶりに会うんだ。
仲良かった友達と。
ここで会わないと、また会えるのが、いつになってしまうかわからない。
「行きたい!」
そう思うとすぐさま友達に「行かさせて頂きます!」と返事した。
「時期も一ヵ月後ぐらいやし、もしかしたら元気になってるかも…!」という期待の後押しもあった。
飲み会の約束のやり取りを終え、部屋で横になる。
「よし…それまでに、頑張って乗り越えんぞ。」
ーそして、昨日がその飲み会当日だった。
その日は彼女のこともだいぶ乗り越えられていて、元気を取り戻せていた。
「別れて2ヶ月経つとだいぶ違うよな!!」
飲み会を断らなくて、本当に良かった。
誘ってもらったことに感謝しかない。
ここでの選択もまた自分の人生を変化させたはずだ。
祇園四条の駅につき、10年ぶりの友達たちと会う。
みんな変わっていなくて、凄く凄く楽しかった。
「大学の頃はこんな感じだったな!!」
というあの頃の感性を完全に取り戻せていた。
でも、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎる。
飲み屋を出て、外でみんなで写真を撮り、お開き。
帰りの駅の方向へ1人で向かいながら、
「あー楽しかった!!!」
と、さっきまでの飲み会のやり取りを思い出す。
待っていた電車が到着し、乗り込み席に座る。
少しゆっくりしながらボーとしていると、彼女のことをまた思い出してしまっていた。
あまりに楽しい空間から、急に一人になると、そのギャップにやられてしまうときがある。
「うーん…しんど…」
急に心がズシッと重くなる。
さっきまでとは一変して、電車の中では彼女のことばかり考えてしまっていた。
「まだ残ってんな~…」
飲み会前までは「立ち直れた!」と思っていたが、
まだだった…
まだ彼女のことを完全には消化しきれていない現状を目の当たりにし、落ち込む。
駅に到着し、電車を降りる。
家まで歩いていく途中、空を見上げると、
「あー飛行機雲…」
夜空に飛行機雲がかかっていた。
小学生の頃は飛行機雲を見つけると、いつもなんだかラッキーな気分になっていた。
いつでも見つけれるものでもないので、特別なものを見れた気がしていた。
今はもう、そんな気持ちは全く起きない…
でも、夜空にかかる飛行機雲を見つめて、
「もうちょっと、歩きたいな…」
そう思った。
彼女への気持ちをこのまま家に持ち帰りたくは無かったし、
何より、歩きたいと俺が思ったんだ。
「歩こう。」
進路を家の方向ではなく、飛行機雲が向かう方向へ。
家からどんどん遠ざかっていく。
夜の道は本当に静かで、煩わしさを全く感じなく歩けるから好きだ。
何も聞こえない夜道を歩いていると夜と一体化出来た気がする。
抱いてしまった彼女への気持ちをしっかり感じ切って消化させるにはもってこいの環境だ。
飛行機雲の向かう方向へ歩いていく。
気づけば歩いている道は自分が中学の時、通っていた通学路だった。
「どうせなら、中学校までいってみよう!」
久しぶりに中学の時の通学路を歩く。
「あ!そういや、ここの家の子とよう遊んだな~」
「お!確かここの角んとこにはデカい犬がおってんな~」
「ここのヤンキー恐かったんよな…」
懐かし道を歩くたびに中学の頃を鮮明に思い出す。
その思い出が自分の気持ちを上げていく。
少しずつだけど確実に。
いつのまにか、彼女への気持ちは姿を消し、夜を楽しんでる自分がいた。
自分が通っていた中学校までたどり着いた。
旧校舎と新校舎があるのだが、あいかわらず旧校舎はボロボロのままだった。
「そろそろ改装したれよな…笑」
自然と笑みがこぼれる。
中学校を見ていると、
女の子に興味あるくせに、話しかけられると耳を真っ赤にして
「うん」
しか言えなかった自分を、なぜか思い出していた笑。
「あんときを思えば、成長しとんな笑」
自分の成長を実感した瞬間だった。
しばらく見ていたが、ふと時計を見る。
0時をだいぶ過ぎていた。
気持ちも晴れていたので引き返すことに。
「明日も職業訓練校やしな…そろそろ帰るか…」
そう思い、今きた道を引き返す。
誰もいない道を、歩きながら思う。
夜は、一日の終わりを意味するからか、どことない切なさを感じる。
でも、そんな夜にいろんなとき、いろんな場所で、いつも力を貰ってる。
この日もまた、その中の一日。
やっぱり俺は夜が好きだ。