天気の子
2019年08月10日(土)
ウィーーーーン…ゴゴゴゴ…
ガガガガ…ドゴンドゴン!
「う…うーん…うるさいなぁ…」
朝から隣の家の工事がうるさくて目が覚める。
隣の家が工事するとこんなにもうるさいのに、工事してる人たちは耳とか大丈夫なんだろうか…
無理やり起こされ少々気分の悪い目覚めだったが時計を見ると、もう昼だった。
「そうだ、今日からお盆だったな…」
職業訓練校に現在通っているのだが、8月10日から8月18日までお盆休みに入る。
今日は9連休の初日。
「みんなどっかに行ったりするんだろうな…」
先週から、1人身になってしまった僕に予定など何もなかった。
「でもせっかくの休みだし、この休みをいつもと違う休み方にしたいな。」
自分を変えたい気持ちがうずく。
この期間に、自分が今までしてこなかったことを、やってみたいな…と思った。
自分がいつもしそうにないことを考えるとなんか色々思い浮かぶ…
そんな中、最近の母との会話を思い出す。
「あんた、元気の子っていう映画見に行ってきたけど、めちゃくちゃ良かったで!」
「お母さん、天気の子やで…」
と、やり取りしていたことを思い出した。
映画好きの母は自分が見に行った映画で良かったものがあればすぐ僕に教えてくれる。
でも自分は
「そうなんや。また行くわ~。」
と言うものの、そのまま行けず仕舞いなことが大半だった。
「いつもと違うこと…うん、いつもの俺なら、天気の子も見に行かず仕舞いになっているやろうから、今日は天気の子を見に行ってみよう。」
ただ、今から家をでると、この暑さでやられてしまいそうなので、
とりあえず、レイトショーで見に行くことにした。
「レイトショーなら安いし、人も少ないだろう。」
家から自転車で30分ぐらいの所にイオンシネマがある。
ネットで上映時間を調べて見ると、天気の子のレイトショーは21時10分から。
「20時半くらいにチャリで家出れば間に合うな。」
「でも、1人映画とか、めちゃくちゃ久しぶりだな」
過去に1人で映画を見に行ったことは一度だけ。
なので少しワクワクした。
出発時間までは時間があったので
それまではFXの検証を行ったり、本を読んだりしていた。
気づいたらいつのまにか20時半をちょっと過ぎていた。
「やべやべ!早く出ないと!」
急ぎ足でチャリにまたがり、家の近くの映画館へ。
その途中で夜空を見上げたら、半分顔を隠した月がこっちを見てる。
その横では一番星がしっかり輝いていた。
「一番星って結構しっかり光ってんのな…」
目的のイオンシネマに到着。
レイトショーだから人が少ないと思った自分は大バカ者だ。
お盆ということを忘れてた。
いつもなら閑散としている映画館に人が溢れていた…
「げぇー…映画見るの今度にしよかな…」と一瞬思ったが、
「おい!俺!変わるんだろ!」
その気持ちが映画館へ向かわせる。
チケットを買い、いざシアタールームへ。
1番後ろの端っこに座る。
周りには家族やカップルが、沢山いた。
「まだ付き合っていたら、一緒に見に来てただろな…」
周りを羨ましく思っている中、照明が落ち、映画の上映が始まった。
…
見終わり、映画館を後にする。
天気の子の感想は…
めちゃくちゃ良かった。
今の自分に響くことがあり過ぎた。
中でもヒロインの子が
「自分の役割が分かって嬉しかった」と主人公に伝えるシーンがあるのだが、
そのシーンが映画館を出た後もずっと脳裏に焼き付いていた。
駐輪所に向かいながら、
「俺の役割ってなんなのかな…」と思った。
自分に置き換えて考える。
彼女のことを幸せにしていくことが自分に与えられた役割だった。
でも、
せっかく手に入れた役割が、
与えられた役割が、
見えなくなってしまっていた。
いつでも支えてあげることが出来たのに、
話をきいてあげることや、ちょっとした言葉をかけてあげることも出来た。
でも、しなかった。
自分の気持ちを優先し、何も見えなかったことにしていた。
見えていたのに。
そう、見えていたんだ。
…
その役割はもう自分の役割ではなくなってしまったんだ。
自分の役割だったものが、他の誰かに渡ってしまう。
そう考えると、とても悔いし、
そのほかの誰かが心底羨ましいと思った。
いつか、いつか彼女は自分じゃない誰かに、側にいる役割を与えるのだろう。
自分の元を離れて、彼女はもう行ってしまったんだ。
彼女の背中を見続けても彼女は帰ってこない。
そんなことを考えながら、自転車にまたがり、家へ向かう。
自転車で風を切る中、
「…そういえば、チャリに乗って、何処かへ行くの、なんか久しぶりだな…」
小中高のときはチャリを乗り回していたが、歳を重ねた今では乗り回すこともだいぶ少なくなった。
あの頃はチャリで何処でも行っていた。
何処でも行ける気がした。
どんな季節だろうと
真夏の暑い太陽が照りつけようとも、
真冬の寒い風が吹きつけようとも、
行きたいとき、行きたい場所に向かって一生懸命だった。
…でも今はどうだ?
いつしか必死で立ち漕ぎすることも少なくなっていった。
そんなことを考えながら、思う。
「もうわかってんやろ……失ってしまったものは、もう帰ってこない。」
「やから、今から頑張って、自分を変えようって決意したやん。」
「次こそ失わないように。」
「与えられた役割を立派に全うできる様に。最後まで」
再び見上げた夜空には、月の横で一番星がまだしっかりと輝いていた。